色々と我慢できなかった・・・
DIGITAL MYSTIKZ / Urban Ethics (DMZ) 3LP
Mala と Coki のユニット Digital Mystikz が2010年の冬に発表したセカンド・アルバム。
『RETURN Ⅱ SPACE』(過去記事)はどうやら Mala を中心に作られた作品みたいなんだけど、こちらは Coki が中心になって作った作品になっていて、この二人が同じユニットで活動してるのが不思議になるくらい趣を異にするものになっている。
そもそも Coki っていうと Digital Mystikz の一員というよりも、 Benga のヒット曲 “Night” の共作者と書いた方が分かる人が多い気がするんだけど、あの曲に分かりやすい上モノが乗っていたのと同様、今作も派手な上モノにうなるサブベースという、最近のダブステップに多いスタイルの曲が多く、その手の曲には食傷気味の私には少々辛い。
まぁこけおどし的にサブベースを必要以上に暴れさせる曲に比べれば、さすがに完成度は高いし、ダブ要素が強いところとかもいい感じなんだけど、それでも総体としては私の好みとはちょっと違うかな。
ここに Mala のトラックが混じってくるとまた印象も変わるのかもしれないけど。
DIGITAL MYSTIKZ / RETURN Ⅱ SPACE (DMZ) 3LP
ダブステップの黎明期から活動する Mala と Coki のユニット Digital Mystikz による2010年発表のファースト・アルバム。
確か事前発表だとこの後もう1枚アナログでアルバム出して(『Urban Ethics』というアルバムが出ている)、その2枚に新曲を足してCDアルバムを出す、という話だったと思うのだが、現在のところCDアルバムは出ていないみたい。
2010年のダブステップといいますと、アルバム単位でみても色々と話題作の多かった年ですが、そんな中にあって DUBSTEPFORUM AWARDS 2011 の「BEST ALBUM / COMPILATION」部門で断トツトップを獲得したのが本作。
とはいっても今作はダブステップの未来を提示したとかいう類の作品ではなく、むしろダブステップの根源的な魅力を凝縮したような作品になっていて、跳ねたリズムと重たいベースによるトラックはとにかく硬質。さらにそれらがアナログらしい素晴らしい音圧で刻まれているもんだから、クラブ・ミュージックとしてのダブステップとしては文句なしの作品になっている。
かといって過去のダブステップの焼き直しというわけではけしてなく、変則的なビートの “MOUNTAIN DREAD MARCH” や、細かく震えるベースがまるでトライバルなハードミニマルのようなリズム感を出している “RETURN Ⅱ SPACE” など実に刺激的。
ということでダブステップフォーラムのアワードで1位になるのも納得の素晴らしい作品なんだけど、惜しむらくはやはり6曲という収録曲の少なさですかね。そういった意味では、やはり CD としてまとまった形で聴けるとまた評価も変わるのかなという気がするんだけど、やっぱり出ないんですかね・・・。
The Weeknd / House of Balloons
こちらの記事で James Blake についてグダグダと書いたんですが、誤解を恐れずに書けば、私が James Blake に期待していたのは今作のような作品ですかね。
っていうことで、今年の3月にフリーで配信された、カナダの Abel Tesfaye の一人ユニットだという The Weeknd のファースト・アルバム。
そもそも私が James Blake に期待していた作品というのは、簡単に書くとトラックの立った歌モノなんだけど、 The Weeknd の今作は正にそういう作品。
あえてジャンル分けすると R&B の範疇に入るモノなんだけど、ヒップホップはもちろんの事、エレクトロニカやダブステップなど様々な要素が溶け合ったトラックは、平熱感覚というよりは、むしろ徐々に沈みこんでいくような静かな暗さに覆われていて、それがなんとも刺激的でありながらも特徴的。
一方ヴォーカルの方はというと、その透き通った高音だけで十分魅力的ながら、そこに時折少しざらついた低めの声を交えながら歌われるメロディはかなりポップかつ甘いもので、また同時に歌いすぎではないかと思えるほど感情的に歌い上げる場面を目立ち、これだけだとちょっとしつこいのではないかと思えるくらい。
しかしそのヴォーカルがトラックと見事な対比を表す事で、必要以上に暗くなりすぎないメリハリのあるモノになっているし、そのヴォーカルにしても、所謂喜怒哀楽のような分かりやすい感情を伝えるようなものではないのに、それでいて人間的な熱や情感に溢れているという、トラック共々不思議な余韻を残すもので、気がつくとまた聴いているという中毒性がある。
今更無料の音源なのにここまでの完成度のものが、なんて事を書く気はないけど、それにしてもほとんど名前も知られていないような人がここまでの作品を出したというのは衝撃的だし、それを抜きにしても素晴らしい作品。
色んな意味で今年を代表する作品なのは間違いない。
JAMES BLAKE / JAMES BLAKE (ATLAS) CD
http://www.myspace.com/jamesblakeproduction
年に何枚か発売される前から名盤である事がほぼ確定されているアルバム、っていうのがありますが、今年でいえばまずこれでしょうね。っていうことで、タワー・レコードでも激押しされててびっくりした James Blake のデビュー・アルバム。
私が彼の名前を認識したのはそれほど早くはなく、昨年秋『Klavierwerke EP』を出した時で、その時試聴した印象では歌モノダブステップという印象で、悪くはなかったものの少しトラックが弱い感じがして買わなかったんですよね。
しかし昨年末から今年の頭にかけて彼の名前を年間ベストや2011年の予測記事の類で頻繁に目にするようになり、それに伴って色んなところで彼に対する期待値がどんどん高くなっていくのを感じました。
それにつられるように私も James Blake のアルバムには期待するようになったんだけど、実際聴いてみると、う~ん、これは私にはよく分からない作品ですかね。
私が今作に期待していたものとしては当然ダブステップの要素なんだけど、それがまずよく分からない。
音響的にダブステップ以降のものだといわれると、まぁそうなのかと思わなくもないし、チリチリとしたノイズを纏い少し奥まったところで鳴るクセに妙にクリアな音は確かに面白いとは思うけど、そこまで評価されるようなものなのかというと疑問だし。
かといってダブステップらしい低音や、タメのきいたドラムが聴こえるかっていうと、それもあまりないし、もっといえばダブステップの要素が必要だと思わされるような曲もない。
じゃぁ単純に一つの作品としてどうなのかというと、オルガンを軸にか細い声で歌い上げる今作は、所謂ブルー・アイド・ソウルと呼ばれるものに近いんだけど、曲にしても彼のヴォーカルにしてもあまり引っかかるものがなく、やっぱり今作が評価される理由というのがよく分からん。
多分最初に期待したせいか減点法で評価してしまったのがよくなかったんだろうし、一つの作品としてそんなに悪い作品だとは思わないんだけど、なんか今作のせいで「ポスト・ダブステップ」という言葉が歌モノダブステップと同義のように扱われているような感じもあって、どうもモヤモヤしてしまうのです。
なんか取り留めのない感じになってしまいましたね。
CD1枚、LP3枚、12インチ2枚
IWACCHI / Wonder Project 25
もうファイル削除されているようなダウンロード作品を紹介することに意味があるのか、という声を無視して紹介する(まぁ筆の遅い私が悪いんですけど・・・)、栃木のラッパー Iwacchi が昨年秋に発表したフリー・ダウンロードのミニアルバム。
2008年に Lil’諭吉 の『Supa Hypa Ultra Fres$shhh』(過去記事)紹介した時にはまだまだ数の少なかった日本のヒップホップのフリーの作品ですが、昨年の後半くらいから急激に増えてきた印象があって、その分玉石混合な部分がまだ強いのだが、その中ではこれはかなり好きな作品だ。
とはいっても今作が特別完成度が高いとかいうものはないんだけど(失礼)、良くも悪くも「オレは日本語ラップしか聴きません」ってな音楽を作る若手のラッパーが多い中(そこは彼も同様)、彼はそこで肩ひじ張ってヒップホップ然とすることなく、ポップに展開させる事で非常に風通しのよい音楽にしていて、正直ヒップホップ聴いてる感じはそれほどしないんだけど、それでも音楽としては気持ちよく聴ける。
それに彼の人懐っこい声にはこの路線が合ってると思うし。
今作以降まとまった作品は出していないようだけど、この次も是非聴いてみたい。
VERBAL / VISIONAIR (rhythm zone) CD
http://ameblo.jp/m-flo-verbal/
ほとんど開店休業状態の m-flo のラッパー、 Verbal さんの初のソロ・アルバム。
Verbal さんっていいますと、 m-flo のときのテクニカルでありながらも胡散くらい勢い満載のラップが大好きだったんですが、やはり継続的に活動していないと技術もセンスも衰えるものなのか、今作の Verbal のラップには引っかかるものが全くといっていいほどない。
まず1曲目のありきたりな言葉ばかり並べてオレ自慢する “VISION IN THE AIR” からしてげんなりさせられるんだけど、それ以降も目立つのは Lil Wayne をはじめとするゲストの方で、エレクトロやダブステップ、トランスなどを取り込んだ派手なトラックも相まって、主役不在のまま盛り上がる豪華パーティーを見せられているようで、なんともむなしい気分になるし、はっきりいってこの作品に Verbal の華麗な交友関係を披露する以上の意味が感じられない。
けっこう期待していただけに残念。
echtzeit / cl 1 – 4 (Melted) 12″
テクノ的だった kryptic universe による5番(過去記事)とはうって変わって、 echtzeit なるアーティスト(なんて読むんだろう…)による今作は、 “cl” という曲のヴァージョンが4つ収録されたダブ要素の強い内容。
とはいっても従来のモクモクとした上モノと重たい低音、という従来のミニマルダブとは一線を画していている。
低音が一切なくミニマルダブのエフェクトのみを抜き出したような A1 、そこに重たいベースラインとキックを加えながらもすっきりとした音像で聴かせる A2 、構成要素的にはダビーなハードミニマルといった感じなのに低音を絞る事によってまた違った雰囲気を出している B1 、 A1 をテンポダウンさせる事でドローンに近いものにしている B2 と、どれも面白いし、これが一つの曲のヴァージョンだというのも刺激的。
まぁ音のスタイルからしてとても一般受けするタイプのものではないのだが、それでもこのままリリースを重ねればアンダーグラウンドで存在感を発揮するレーベルになるのではないかしら。
kryptic universe / diffusion tracks (Melted) 10″
最近気がつくとミニマルダブ系のレコードを買っている気がする私なのですが、これもそんな1枚。
ということでドイツの人らしい Kryptic Universe の2曲入り10インチ。
echospace のヒット以降、後期 basic channel を参照したような靄がかったミニマルダブが非常に増えたように思うのですが(前からっちゃぁ前からだけど)、今作はむしろ前期 basic channel のハード路線を意識したかのようなダブ・ミニマル。
しかも今作は比較的すっきりとした音像の中、ある種ノイズの一つとしてダブ的なエフェクトが使われている感じで、びっくりするほど新しいというわけではないが、それでも新鮮さを感じさせることに成功している。
裏の 313 によるリミックスも正にダブといった趣の秀逸なもので(echospace の人とは違うのか?)、これはなかなかの傑作ではないかと。